Julien D'ys, Artist

私を作ってくれたのは、ジュリアン── 

Kanokoが永遠の師と仰ぐジュリアン・ディスは、世界のファッションシーンにその名を刻む稀代のアーティスト。1980年代からシャネルやディオール、ジョン・ガリアーノやサン・ローラン、コム・デ・ギャルソンといった一流ブランドのランウェイやエディトリアルのためにウィッグやヘッドピースを創作し続け、紙やガラス、オイル、メタルなど、あらゆる素材を駆使して生み出される彼の作品はもはやヘアの枠には収まらない崇高な美術作品です。壮大なイマジネーションが具現化されたそれらは、見る者の心を掻き乱すような異質な世界観を帯びています。
 
パリ時代からジュリアンのアシスタントを勤めていたKanokoは、そんな彼のものづくりに対する真摯な姿勢に当時も今もインスパイアされているといいます。

初めてKanokoに会ったときのことを教えてください。
 
20年前のパリですね。US VOGUEの仕事でアニー・リーボウィッツとの撮影があり、マリー・アントワネットがテーマの大掛かりで美しい撮影でした。その撮影当日にヘルプとして来てくれたのがKanokoでした。
 
彼女の勤勉さには、驚きました。私が多忙を極めていた時代だったので、彼女の手を借りることができたのは本当に嬉しかったです。その後、私が仕事のためにニューヨークへと移り、彼女もまたこの街に移住して。VOGUE誌を中心に、素晴らしいストーリーをいくつも一緒にやってきました。
 
あなたにとってKanokoはどんな存在でしたか?
 
ショーのヘアを何年も続けるうえで、Kanokoの存在は必要不可欠でした。すべてをオーガナイズできて、仕事が効率化されるのです。今まで複数の日本人と働いてきましたが、アシスタントは男性しか雇ったことがなく、実は女性のアシスタントは彼女が初めて。しかも彼女はとっても小柄でしょう! 大量のスーツケースを運ぶ日々に、「こんなに運べない!」と悲鳴を上げて、みんなが笑う、そんな光景が懐かしいです。皆に愛されていたため、彼女が巣立った後も、グレース・コンディントンとの撮影の際には「Kanokoはどこ?」とよく聞かれたものでした。
 
様々な局面を乗り越えた上で、私たちは笑い合える関係を築きました。決して私は一緒に働きやすい人間ではないのですが、それでも彼女はそばにいて、時には泣きながら、ついてきてくれたのです。そもそも私は“アシスタント”という言葉自体、好きではないのです。その人のことが好きではないと働けないですし、あくまで“一緒に働く”という観念のもと仕事をしてきました。彼女は私の家族のことも知っていますし、もはやファミリーです。

VASICの起業については知っていましたか?
 
以前にも彼女はあらゆるプロジェクトをやっていたと思いますが、彼女はあまり自分を語らず、シークレットが多いので、実は知らなかったのですよ。でも、Kanokoがバッグ好きなのはもちろん知っていました。だって、いつも風変わりなバッグをもっていましたからね。シューズみたいなバッグをもっていたこともありました(笑)。だから、バッグを作っていると聞いても納得でした。彼女はセンスもいいですし。Kanokoが常に仕事にパッションを燃やしている芯の強い女性というのは私がよく知っていますからね。

VASICはようやく10年が経ちました。何十年と創作を続けられていますが、アドバイスはありますか?
 
10年は長いようでいて、短くもあります。私はとにかくクリエイティブでいたいと、ひたすら創作を続けてきました。ファッション業界における私の働き方は特殊で、彼女のビジネスとはまた異なるのですが、チャンスを掴んだら続けること。それしかないですね。私はいつも彼女を奮起させてきたつもりです。

最近の活動について教えてください。
 
この2月まで、アントワープのMoMu(ファッションミュージアム)で作品が展示されていました。画家のジェームズ・アンソールにオマージュを捧げた仮面舞踏会とビューティが融合した展覧会でした。ミュージアムの人たちから展覧会に参加してほしいと声をかけられたのですが、ガリアーノの「カサノバ」やカール・ラガーフェルドらのために制作したアートピースがいくつもある私のパリのアトリエを見ては、驚いていましたよ。アーティストのようにもの作りをする私の存在が(ファッションやビューティの業界において)珍しいのでしょうね。

そして現在は本の出版に向けて走り出しています。今までいつか出そうとは思ったのですが、サラ・ブラウンが初めてオファーしてくれたのです。「インスタグラムで作品を見て、これは本に残すべき」と。誰も、私がどのようにして作品を制作しているか、想像もつかないでしょうから。コンデナスト社のサポートもあり、私のカルネ(アイデアをしたためた自由帳)を披露するものになりそうです。